コラム

コルトンの丘

コルトンの丘

ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社は2009年ヴィンテージから、ドメーヌ・プランス・フローラン・ド・メロードの斜面中腹の区画の一部を賃借し、コルトンの赤ワインを生産してきました。これに加え、2019年からはドメーヌ・ボノー・デュ・マルトレイの最良の区画をリースして、白ワインのコルトン・シャルルマーニュの生産に乗り出しています。ファースト・ヴィンテージとなる2019年は、2022年の春にリリースされる予定です。

難解なラベル表示

ブルゴーニュの偉大なワイン用ブドウ畑が連なるコート・ドール(黄金丘陵)は、北部のコート・ド・ニュイ地区と、コルトンの丘以南のコート・ド・ボーヌ地区に二分されています。ロマネ・コンティやミュジニーといったブルゴーニュを代表する赤ワインがコート・ド・ニュイで育まれるのに対し、モンラッシェやコルトン・シャルルマーニュといった白ワインの代表はコート・ド・ボーヌから生まれています。

城壁都市ボーヌから国道74号線を北上して真っ先に目に入ってくるのは、東京ドームのような形をしたコルトンの丘です。標高388メートルの丘の頂上周辺は森になっており、周囲の斜面がブドウ畑になっているため、遠くから眺めるコルトンの丘は、長髪の頭頂部と刈上げた周囲の髪型の、ツーブロックのように見えます。コルトンの丘の斜面の多くはグラン・クリュ(特級畑)に格付けされており、コート・ド・ボーヌの赤ワインとして唯一のグラン・クリュであるコルトン(赤)は、160ヘクタールにおよぶ、ブルゴーニュとしては広大な畑です。

原産地呼称およびワイン名が複雑怪奇なブルゴーニュにあって、コルトンの丘のワインのラベル表示は、消費者のみならず流通関係者までをも混乱させる、不可解なものです。誤解を恐れずにもっとも簡略して書けば、コルトンの丘の特級畑はさまざまな小区画に分かれているのですが、原産地統制呼称法上「コルトン」という名前を名乗ることができる小区画群と、「コルトン・シャルルマーニュ」を名乗る小区画群に二分されています。「コルトン・シャルルマーニュ」が斜面上部に位置する一方、「コルトン」は斜面下部に位置しています。ワイン名をラベルに表示するに際して、「コルトン・シャルルマーニュ」の区画からつくられた白ワインは『コルトン・シャルルマーニュ』の名前で販売される一方、赤ワインは『コルトン』の名前で販売されます。「コルトン」の区画からつくられた赤ワインは『コルトン』名で販売され、白ワインは『コルトン・ブラン』としてラベルに表示されます。フランス原産地名称管理委員会が「コルトン」の区画からつくられた白ワインに、より著名な『コルトン・シャルルマーニュ』の名前を許さないのは、赤ワインの生産に適していると考えられている赤土の「コルトン」の区画から、白ワインを醸造させたくないと考えているためです。実際、グラン・クリュの『コルトン・ブラン』は、市場ではほとんど見かけなくなりました。

コルトンの丘のワインが消費者にとって絶望的に難解なのは、上記の『コルトン・シャルルマーニュ』(白)と『コルトン』(赤)、『コルトン・ブラン』(白)のグラン・クリュの名前以外に、小区画名を続けて表示することが広く行われているからです。たとえば、「クロ・デュ・ロワ」という小区画からつくられる赤ワインは通常、『コルトン・クロ・デュ・ロワ』という名前で販売されていますし、広く販売されている名前を挙げるだけでも、『コルトン・ブレッサンド』、『コルトン・ルナルド』、『コルトン・ロニェ』等、きりがありません。

一方、「コルトン・シャルルマーニュ」を名乗る区画群のなかに、「アン・シャルルマーニュ 1)」という区画があるのですが、ここで白ワインがつくられた場合は自動的に「コルトン・シャルルマーニュ」と表示される一方、赤ワインがつくられた場合は「コルトン・アン・シャルルマーニュ 2)」と表示することが可能です。しかしながら「コルトン・アン・シャルルマーニュ」といわれたときに、一体どれだけの人が、そのワインが白ワインではなく、赤ワインであることを理解できるのでしょうか。

赤ワインの低迷

コルトンはコート・ド・ボーヌ地区の赤ワインとして唯一、グラン・クリュに格付けされているのですが、ヴォーヌ・ロマネ村のドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティやアンリ・ジャイエ、シャンボール・ミュジニー村のドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエといったような最上級の生産者に恵まれなかった結果、その赤ワインは長らく凡庸なイメージを引きずっていました。たとえば、ワイン批評家のロバート・パーカーは1990年に上梓した『ブルゴーニュ』のなかで、コルトンの畑のあるアロース・コルトン村を「偉大な白と、過大評価されている赤ワインの産地」と評しています。確かに、白ワイン用のシャルドネはコルトンの丘の斜面上部の、水はけの良い区画に植えられているのに対し、赤ワイン用のピノ・ノワールは表土が深く、水はけの劣る、斜面下部に広がっています。また、特級畑のコルトンは、隣村のラドワ・セリニーにも広がっているのですが、その隣のニュイ・サン・ジョルジュに至っては、斜面下部の地続きの畑は、グラン・クリュではありません。コルトンの赤がブルゴーニュを代表する赤ワインのひとつに数えられるためには、質の劣るワインを生み出しがちな斜面下部の畑を格下げする必要があると考えられています。

冒頭に書いたように、DRCは2009年ヴィンテージ以降、斜面中腹の区画からコルトン赤を生産していますし、最上のコルトン・シャルルマーニュの生産者のひとつであるドメーヌ・コシュ・デュリも同時期から、コルトンの赤を瓶詰めしています。また、ドメーヌ・ルロワの醸造するコルトン・ルナルドは常に最上のコルトン赤とされ、コシュ・デュリのコルトン・シャルルマーニュを上回るような価格で販売されています。こうした高価格で取引されるボトルに触発され、コルトンの赤ワインの品質が劇的に変わろうとしています。

今回のオークションでは、入手困難なコシュ・デュリのコルトン・シャルルマーニュだけでなく、非常に希少な同ドメーヌのコルトン赤、ドメーヌ・ルロワのコルトン・シャルルマーニュやDRCのコルトン、そしてドメーヌ・ボノー・デュ・マルトレイから大量のコルトン・シャルルマーニュとコルトン赤が出品されています。

1)En Charlemagne
2)Corton En Charlemagne